06.09.22:02
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01.23.01:03
1
「立置・平和・ドラ2。・・・7700」
響く低い声が、卓の中央に掻き寄せられる牌の音に紛れていく。
まだ東場の2局目で、点差が狭いこともあり放銃した対面の男はほらよ、と穏やかに点棒を寄越した。その点棒を無骨な指先が慣れた様子で纏め、卓のポケットに落とし込む。
間断なく卓面が開き、次の山を差し出してくる。4人の手が伸び、山から牌を掴み取り、手牌を整えていく。
俺はその様子を、男の背越しに見ている。
「ポン」
男が鳴いた。
早鳴きは珍しい。俺は首を伸ばして彼の手元を覗き込む。
奴は今親だから、ダブ東だ。ドラが2つ並んでいる。なるほど。俺は退屈そうな表情を変えず、首を戻した。
カーテンもない雀荘の窓に目をやると、外は漆黒だ。柱に掛けられた安っぽい時計はそろそろ日付が変わることを示している。
「カン」
長い指が、4個の東牌を卓の右隅へと打ち付けた。
王牌から引いた一枚を軽く盲牌したあと、見遣った。それも卓へ晒して手牌を明かす。
「嶺上開花・・・。ダブ東、ドラ2、・・・いや、3だ」
増えたドラ表示牌の次の牌を手元に認めて、男が淡々と述べる。
「親ッパネだ」
ほかの3人から呻き声が洩れた。
「行こうか、龍司」
男が俺を振り返った。結局、南場の第2局に下家が飛び、場が終わったときだ。
俺は跨っていた椅子から立ち上がり、強張っていた肩を解した。
男は卓から札を集めると、整え、財布に押し込んでそれを尻ポケットに差した。常勝ではないが、この男は強かった。土壇場になるほどありえない牌を自模ってくるのを何度も見ている。
「腹、減ったわ」
そう言うと、彼は、そうだなあ、とのんびり答え、「牛丼行くか」と返してきた。ま、ええやろ。
狭く暗い雀荘の階段を下りる。吹き寄せる1月の風が開けたままのコートの胸から滑り込んできた。前を行く彼はいつものスーツの上に、黒革のハーフコートを着ている。広い肩幅にぴたりと合った身頃を見るたびに俺は人知れず満足する。真冬だというのにスーツを着たきりの彼に半ば無理矢理誂えたものだった。
「ま、ま、・・・待てやあっ!!」
もつれる足音と共に背後から掛けられた、上ずった中年男の声に俺は足を止めてゆっくりと半身を向けた。
中年男は先ほど、彼と卓を囲んだメンバーの一人だった。最後に派手に飛んだ下家だ。
中肉中背、薄くなった頭・・・額に浮き上がった血管。落ち窪んだ目。視線は俺の後ろで同じく足を止めたであろう彼と俺とを慌しく行き来している。
「イ、イ、イ・・・、・・・イカサマだろっ!お前、この男と組んで・・・、俺のこと、嵌めたんだろう!」
「・・・何やと」
俺が呟いて奴に向き直ると、男は腰を引きながらも踏みとどまった。寒さと恐怖で食い縛った歯から、ひええ、と、怯えた声が洩れている。
「イカサマなんか、してねえさ。この男は俺の手牌しか見ていない」
背後から彼の落ち着いた声がした。彼の言うとおりだ。僅かに違っている点は、俺が見ていたのは手牌よりも、彼だったというところくらいだ。
「返せぇ、金っ・・・、・・・その金はな、明日、支払う予定の金なんだ・・・その金がないと・・・俺の工場は・・・終わりなんだ!」
中年男の悲鳴が寒空に響く。俺は松屋で何を注文するか考えながら、オッサンを見下ろしていた。彼がどうするかだ。
響く低い声が、卓の中央に掻き寄せられる牌の音に紛れていく。
まだ東場の2局目で、点差が狭いこともあり放銃した対面の男はほらよ、と穏やかに点棒を寄越した。その点棒を無骨な指先が慣れた様子で纏め、卓のポケットに落とし込む。
間断なく卓面が開き、次の山を差し出してくる。4人の手が伸び、山から牌を掴み取り、手牌を整えていく。
俺はその様子を、男の背越しに見ている。
「ポン」
男が鳴いた。
早鳴きは珍しい。俺は首を伸ばして彼の手元を覗き込む。
奴は今親だから、ダブ東だ。ドラが2つ並んでいる。なるほど。俺は退屈そうな表情を変えず、首を戻した。
カーテンもない雀荘の窓に目をやると、外は漆黒だ。柱に掛けられた安っぽい時計はそろそろ日付が変わることを示している。
「カン」
長い指が、4個の東牌を卓の右隅へと打ち付けた。
王牌から引いた一枚を軽く盲牌したあと、見遣った。それも卓へ晒して手牌を明かす。
「嶺上開花・・・。ダブ東、ドラ2、・・・いや、3だ」
増えたドラ表示牌の次の牌を手元に認めて、男が淡々と述べる。
「親ッパネだ」
ほかの3人から呻き声が洩れた。
「行こうか、龍司」
男が俺を振り返った。結局、南場の第2局に下家が飛び、場が終わったときだ。
俺は跨っていた椅子から立ち上がり、強張っていた肩を解した。
男は卓から札を集めると、整え、財布に押し込んでそれを尻ポケットに差した。常勝ではないが、この男は強かった。土壇場になるほどありえない牌を自模ってくるのを何度も見ている。
「腹、減ったわ」
そう言うと、彼は、そうだなあ、とのんびり答え、「牛丼行くか」と返してきた。ま、ええやろ。
狭く暗い雀荘の階段を下りる。吹き寄せる1月の風が開けたままのコートの胸から滑り込んできた。前を行く彼はいつものスーツの上に、黒革のハーフコートを着ている。広い肩幅にぴたりと合った身頃を見るたびに俺は人知れず満足する。真冬だというのにスーツを着たきりの彼に半ば無理矢理誂えたものだった。
「ま、ま、・・・待てやあっ!!」
もつれる足音と共に背後から掛けられた、上ずった中年男の声に俺は足を止めてゆっくりと半身を向けた。
中年男は先ほど、彼と卓を囲んだメンバーの一人だった。最後に派手に飛んだ下家だ。
中肉中背、薄くなった頭・・・額に浮き上がった血管。落ち窪んだ目。視線は俺の後ろで同じく足を止めたであろう彼と俺とを慌しく行き来している。
「イ、イ、イ・・・、・・・イカサマだろっ!お前、この男と組んで・・・、俺のこと、嵌めたんだろう!」
「・・・何やと」
俺が呟いて奴に向き直ると、男は腰を引きながらも踏みとどまった。寒さと恐怖で食い縛った歯から、ひええ、と、怯えた声が洩れている。
「イカサマなんか、してねえさ。この男は俺の手牌しか見ていない」
背後から彼の落ち着いた声がした。彼の言うとおりだ。僅かに違っている点は、俺が見ていたのは手牌よりも、彼だったというところくらいだ。
「返せぇ、金っ・・・、・・・その金はな、明日、支払う予定の金なんだ・・・その金がないと・・・俺の工場は・・・終わりなんだ!」
中年男の悲鳴が寒空に響く。俺は松屋で何を注文するか考えながら、オッサンを見下ろしていた。彼がどうするかだ。
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